相続と登記の問題とは、相続や遺言で不動産の所有権を取得した人以外にその不動産への権利を主張する人がいる場合に、誰を勝たせたらいいのか、どういう基準でそれを判断するのか、というテーマです。
なぜ登記が関係するかというと、不動産の権利を主張する人が複数いる場合は、基本的に登記の有無でその勝敗を決することとなっているからです(民法177条)。
登記名義を持っている人が勝つということです。
しかし、全てが登記の有無で判断されるわけではありません。
登記の有無で判断される場合は、権利を主張する人同士が「当事者もしくはその包括承継人以外の者で、登記の欠缺(けんけつ=不存在)を主張する正当の利益を有する者」(大連判明治41年12月15日)である場合です。
争っている人同士の法律的な関係性ごとに、登記の有無で判断される場合とそうでない場合があるのです。
そこから、相続と登記の問題とは、上記の基準をふまえ、登記がないと勝てない場合とそうではない場合を判別する問題、その理由について考える問題とも言えます。
(実際の裁判では、「登記の有無」以外にも多様な論点を検討することとなります。)
以下、各論です。
1 遺産分割により相続分と異なる権利を取得した相続人(最判昭46年1月26日)
例えば、相続人が複数いる場合に遺産分割をして不動産全部の所有権を1人が取得したようなときです。この時、取得した相続人と他の相続人の間で所有権の有無を決するのは登記ではありませんが、他の相続人が遺産分割にも関わらず第三者に自分の相続分にあたる持分について売ったり差し押さえられたりした場合は、遺産分割で取得した相続人と持分の買主や差押権者との間では登記の有無で勝ち負けを決めます。遺産分割に基づく相続登記と、相続人からの所有権移転登記または差押登記のどちらか早く登記した方が勝つということです。
2 遺言により不動産の遺贈を受けた第三者(最判昭39年3月6日)
例えば、遺言によって不動産の遺贈を受けた相続人以外の第三者がいるとしましょう。この時、受遺者と相続人との間で所有権の有無を決するのは登記ではありませんが、相続人が別の第三者に相続分にあたる持分について売ったり差し押さえられたりした場合は、受遺者と持分の買主や差押権者との間では登記の有無で勝ち負けを決めます。
3 被相続人からの譲受人(大判大15年4月30日)
例えば、被相続人が生前に不動産を売却していた場合です。この時、買主と相続人との間で所有権の有無を決するのは登記ではありませんが、相続人が別の第三者に相続分にあたる持分について売ったり差し押さえられたりした場合は、生前の買主と死後の買主や差押権者との間では登記の有無で勝ち負けを決めます。
4 他の共同相続人による持分の処分(最判昭38年2月22日)
例えば、2人で共同相続した場合において、他の共同相続人が、無権利で不動産全体を売ってしまったときなどです。この場合は自分の持分を売られてしまった相続人と買主の間で所有権の有無を決するのは登記ではありません。
5 他の相続人が相続放棄した場合(最判昭42年1月20日)
例えば、相続人の一人が相続放棄したにもかかわらず、その相続人の債権者が不動産を差し押さえた場合です。この場合は他の相続人の所有権の主張と差押債権者の差押えの主張を決するのは登記ではありません。
などなど・・・
こうしたトラブルは、無いようで有ります。お金に困っている他の相続人が持分を売却してその買主から共有物分割請求を受けたり、他の相続人の持分が税金の滞納で差押えを受けたとかいったことがありがちです。